アイデアを成果に結びつける力を養うために
(株)イトーキ 先端研究統括部長 兼先端技術研究所所長
大橋 一広 様
(プロフィール)
1993年イトーキ入社。博物館・公共文教施設の企画立案・展示空間設計に従事し、コミュニケーションデザインを担当。2004年から知的創造空間・ワークプレイス&スタイルのソリューション、新規事業開拓などに従事。2011年からICT・デジタル技術を活用した事業企画を推進。現在は、AIやIoTなどの先端技術と知的創造空間を融合させた次世代ワークスタイルのコンセプトデザインなどを統括している。
“明日の「働く」を、デザインする”を掲げ、オフィス空間や公共空間などの空間、環境、場づくりをトータルに支援している株式会社イトーキ。先端研究部門よりご用命いただき、2019年度よりマインドマップ®などを取り入れたプロセス変革ワークショップを実施しています。その狙いと、目指す組織のあり方などについて、同社先端技研究統括部長の大橋一広氏にお話しいただきました。(以下敬称略)
—当社にワークショップをご用命いただくに当たって、どのような課題意識をお持ちでしたか。
(大橋)イトーキは1890年創業しました。社会に先んじてオフィスのあり方や働き方を変えようと、1975年にはオフィスプランセンターを創設しました。「オフィスを科学する」というコンセプトの下、オフィスのシステマチックな改善を目指したことが、空間デザイン事業の礎になりました。
40年余を経て2017年、ミッションステートメントを“明日の「働く」を、デザインする”に刷新。私どもの部署では、モノだけでなく、テクノロジーとの融合によってワークプレイスはどうあるべきか提案できるようにするための研究開発を担っています。
最近のビジネスの動き、協業のあり方を見ていると、今までとは異なるビジネスモデルであり、従来の業種業界の枠組みや境界は無くなっています。技術とともに産業構造が明らかに変わってきている時代にあって、どのようなものを生み出していくかを考える時、取り組むべきことや学ぶべきことは今までとは違ってしかるべきだと思うのです。
特に、研究開発の分野では、今まではテーマが定まっている枠の中で新商品やサービスを生み出す仕事が主でしたが、今は未知のビジネスや新規のテーマを設定しなければならない時代です。モノづくりの根幹であるスキルセットも、どのようなものを持っておくべきか考え直さなければならない時ではないかと思っています。
テーマがあった時代は、それぞれのテーマに対応した知識や技能を持っていれば良かったでしょう。しかし、テーマのゴールが不確実・あいまいな状態では、意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自律性、創造性、コミュニケーション能力といった、いわゆる非認知スキルが重要になります。ビジネスや教育の現場で、非認知スキルを育み、それを発揮して、どのように経済価値に変えていくかということについても、取り組んでいかなければならなりません。
さらに、スキルセットの変化に対応したチームビルディングも必要だと思っています。個々が新たなスキルセットを身につけ、お客様から求められるソリューションを提供できるチーム。この新たなスキルセットを身につける上で、マインドマップ®は方法の一つではかと感じています。一つの技能を研ぎ澄ますだけでなく、人間力、企画力、スキル実行力を総合的に磨くことで、スキルとマインドの両方を身につけることが大切だと思っています。
ビジネスの組織として、また個人として、新しいことにチャレンジし、学び続けることは重要なスキルとマインドだと考えています。私たちのチーム自身、研究開発担当として、働く人の創造力を発揮しやすくするためには、どのようなチーム組織や環境・システムにするかをデザイン、開発する必要があります。新たな価値のアイデア創出に、デザインシンキングの方法も実践検証しています。
クリエイティブなチームに必要な4つの「個のチカラ」とは?
—個々に求められるスキルセットの変化、それに対応したチームビルディングも必要ということですね。具体的には、どのようなことに取り組む必要性を感じていますか。
(大橋)クリエイティブなチームになるためには、4つのことが必要だと思っています。
まずは、専門性を深めること。次に、想像力・構想力を高めること。さらに提案力、俗にいうプレゼン(伝達)力です。相手に共感、理解してもらうために、考えを整理して、アイデアとして成立させて提示し、実動するというところまでできることです。
私は大学で講師として講義を受け持つ機会がありますが、学生はグループでアイデアを多く発散させるブレストの作法は慣れていて上手ですが、それらを互いに折衝し、一つにまとめることが苦手な傾向を感じることがありますね。
最後はファシリテーション力です。目標達成に向けて、みんなの意見が出やすい場づくりの仕方をメンバーみんなが身につけていくことで、チーム全体がパワーアップすると思っています。
これらは研究開発部隊では特に必要なことで、チームを組んで高めていかなければならない時代だと思います。本質的に変化しないと、新しいものを生み出せません。まずは変化に必要な気づきを体感することが大切なので、私たちメンバー限定でやってみようということで、少しずつかたちえさんのワークショップをやってみています。まずは自分たちが変化を体感し、実感した上で、お客様にもお伝えしていきたいです。
アイデアで終わらせず、成果に結びつけるために
—マインドマップ®も取り入れた私どもの「成果創出に向けたプロセス変革ワークショップ」を開催してみて、いかがでしたか。
(大橋)アイデアの発散から収束に向かうための整理をすることによって、出口(ゴール)の表現が変わり、説得力が増したなと感じる人が出てきました。実際に、マインドマップ®を試行して、プレゼンや説明するようになったメンバーもいます。デザイナーだけでなく、他の職種部門でもマインドマップ®的な発想は求められていると思います。私もやってみたいという声は広がると思います。
ワークショップを受けて、マインドマップ®を取り入れるかどうかは個人の主観でいいと思います。どれが合うかは人それぞれですから。でも、こうした機会をチャンスと捉えるようにはなってほしいですね。
私たちはまだまだ、企業や部署、分野を越えて協働するダイバーシティ&インクルージョン(D&I)やオープンイノベーションに十分に到達できていません。デザイナー同士だけでなく、もっと創造的になって、D&Iが進むことを期待したいですね。
—私どもとの協働、共創を通じて、最終的にどのようなことを達成したいですか
(大橋)アイデアを出して、成果となり、新しい価値を持った商品・サービスとして使ってもらって社会に組み込まれていく――。未知の価値創造の分野で、このサイクルを、向こう1~2年のうちに企画・研究開発の組織として回わるようになっていたいですね。新しい挑戦や黎明期では、生み出す人が生み出して、売る人が売るという分業モデルでは難しい局面があります。先ずは、バリューチェーンが一体的となって遂行されることも必要と思います。
こうしたサイクルを創り出すという観点を持って、新たなワークスペースのあり方を追求しています。それを検証し具現化しているのがイトーキ東京イノベーションセンターSYNQAです。SYNQAは2012年にスタートし、あらゆる分野の方々に使っていただけるようになりました。
ここでの出会いとコラボレーションを通じて、私たちも含めて多くのアイデアや企画で試行錯誤しています。アイデアの種を企画に練り上げ、成果に結びつけるかが問われるフェーズに来ています。
先ほどのようなビジネスサイクルを創り出すためには、学んで生み出し、また学ぶという学びのサイクルづくりも必要となってくるでしょう。これは個人としてもですが、教え方も学び方も変わっていくこれからの時代の「働く」と「学ぶ」に関わっていきたいと思っています。
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